高年齢者の転倒は「足腰の問題」だけなのか?
高年齢者が職場で転倒すると、
と考えてしまうことがあります。
確かに、加齢に伴って筋力やバランス能力、視力などが変化することは、転倒リスクを考えるうえで重要です。
しかし、それだけを原因にすると、
で対策が終わってしまいます。
転倒した場所には、段差がなかったか。床が滑りやすくなかったか。十分な明るさがあったか。急いで歩かなければならない仕事になっていなかったか。
今回は、高年齢者の転倒を、本人の身体機能だけではなく職場側からも見てみます。
「転びやすくなった」だけで終わらせない
厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」では、高年齢者の身体機能等の変化を踏まえながら、職場環境や作業方法についても対策を行うことが示されています。
例えば、
- 通路を含む作業場所の照度を確保する
- 可能な限り通路の段差を解消する
- 階段に手すりを設ける
- 滑りやすい床には防滑素材を使用する
- 水や油などを放置しない
- 滑りやすい場所では防滑靴を使用する
といった対策です。
つまり、
人の身体機能と、その人が働く場所や作業方法の両方を見ることが重要です。
同じ段差でも、リスクは同じとは限らない
若いときには気にならなかった小さな段差でも、年齢や体力の状況によっては、つまずくきっかけになることがあります。
だからといって、
だけで考える必要はありません。
別の見方をすると、
- その段差は本当に必要なのか
- なくすことはできないか
- 見えやすくできないか
- 十分な照度があるか
- 手すりを設けられないか
という職場側の問いに変わります。
人を見ることと、環境を見ること。
どちらか一方ではなく、両方を確認します。
転倒を四つの方向から見てみる
例えば、高年齢者の転倒について、次のように分けて考えることができます。
| 見るところ | 確認してみること |
|---|---|
| 身体 | 筋力、バランス、歩行能力、視力などに変化はないか |
| 環境 | 段差、滑り、照度、通路上の物などはないか |
| 作業 | 無理な姿勢や、急いで移動するような作業になっていないか |
| 作業管理 | 作業スピード、勤務時間、休憩などに無理がないか |
本人の身体機能や行動を確認することも必要です。
ただし、設備、作業環境、作業方法、仕事の進め方にも改善できるところがないかを確認します。
まず、歩く場所を見てみる
転倒対策というと、特別な設備を導入することを想像するかもしれません。
しかし、最初に確認できることはもっと身近なところにあります。
| 確認する場所 | 見てみること |
|---|---|
| 通路 | 物、コードなどが歩行の邪魔になっていないか |
| 床 | 水、油などで滑りやすくなっていないか |
| 段差 | なくせない段差が残っていないか |
| 階段 | 手すりなどを設けられないか |
| 照明 | 通路や作業場所が十分見える明るさになっているか |
| 履物 | 作業場所に合った滑りにくい靴になっているか |
転倒した本人に歩き方を注意してもらう前に、普通に歩いても転びにくい場所になっているかを確認します。
「明るいと思っていた」も見直してみる
職場に照明が付いているからといって、必要な場所が十分見えているとは限りません。
高年齢者では、視力だけでなく、明るい場所と暗い場所の変化への対応力が変化することもあります。
厚生労働省の指針でも、通路を含めた作業場所の照度を確保し、照度が極端に変化する場所や作業をできるだけなくすことが示されています。
管理者には十分明るく見えていても、すべての労働者に同じように見えているとは限りません。
実際に歩く位置から床や段差が見えるか確認してみます。
作業のやり方も転倒に関係する
床や段差に問題がなくても、仕事の進め方によって転倒しやすくなることがあります。
例えば、
- 常に急いで移動しなければならない
- 注意力や集中力を長時間求められる
- 身体的な負担の大きい作業が続く
- 十分な休憩を取りにくい
といった場合です。
2026年の厚生労働省指針では、高年齢者の特性を考慮して、
- ゆとりのある作業スピード
- 無理のない作業姿勢
- 勤務形態や勤務時間の工夫
- 身体的負担が大きい作業での定期的な休憩
などを検討する考え方が示されています。
体力を確認することにも意味がある
職場環境だけでなく、高年齢者自身の健康や体力の状況を知ることも重要です。
厚生労働省は、「転倒等リスク評価セルフチェック票」など、転倒リスクに関係する身体機能を確認するための資料も公開しています。
例えば、
- 身体能力・筋力
- 動作能力
- バランス能力
などを客観的に確認することで、自分では気づいていなかった身体機能の変化を知るきっかけになります。
体力の状況を把握し、仕事との組み合わせを考えたり、本人が身体機能の維持・向上に取り組んだりするための材料として使います。
体力に合わせて仕事側も変える
体力チェックで身体機能の変化が分かったとしても、
だけでは、職場の対策にはなりません。
本人の健康や体力の状況に応じて、
- 作業内容を見直す
- 作業方法を変える
- 作業時間を調整する
- 身体的な負担を軽くする
- 設備や補助機器を使う
など、仕事を人に合わせるという方向からも検討します。
例えば、こんな転倒が起きたら
倉庫内を歩いていた高年齢の作業者が、通路の小さな段差につまずいて転倒したとします。
このとき、
| 一つの見方 | もう一つ確認すること |
|---|---|
| 足が上がらなかった | 段差そのものをなくせないか |
| 段差に気づかなかった | 段差が見えやすい明るさだったか |
| 前をよく見ていなかった | 急いで移動する必要がなかったか |
| バランスを崩した | 手すりなどで補えないか |
| 本人の体力が低下していた | 体力に合った仕事になっていたか |
※上記は、高年齢者の転倒を考える方法として当協会で整理した例です。個々の災害原因を示したものではありません。
注意表示だけで終わらせない
段差がある場所に、
と表示することも対策の一つです。
しかし、段差そのものをなくせるのであれば、まずその方法を検討します。
厚生労働省の指針でも、段差や滑りやすい場所などを解消できない場合には、安全標識や危険箇所の掲示によって注意喚起する考え方になっています。
高年齢者向け対策は、ほかの人にも役立つ
通路の段差をなくす。床を滑りにくくする。照明を明るくする。無理のない作業スピードにする。
これらは、高年齢者だけに役立つ対策でしょうか。
若い労働者、新しく入った労働者、荷物を持って移動する労働者などにとっても、働きやすい環境になります。
身体機能の違いを前提に職場を見直すと、年齢にかかわらず転倒しにくく、働きやすい環境へつながることがあります。
2026年4月から事業者の努力義務に
2026年4月1日から、改正労働安全衛生法により、高年齢者の労働災害を防止するため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずることが、事業者の努力義務となりました。
これに合わせて、厚生労働省は「高年齢者の労働災害防止のための指針」を公表しています。
指針では、
- 安全衛生管理体制の確立等
- 職場環境の改善
- 高年齢者の健康や体力の状況の把握
- 健康や体力の状況に応じた対応
- 安全衛生教育
という形で、職場全体で取り組む考え方が示されています。
自分の職場を歩いて確認してみる
| 確認してみること | 確認 |
|---|---|
| 通路に物やコードが置かれていない | □ |
| 床に水や油などが放置されていない | □ |
| 不要な段差をなくしている | □ |
| 階段などに必要な手すりがある | □ |
| 通路や作業場所に十分な明るさがある | □ |
| 作業場所に合った履物を使用している | □ |
| 無理に急がなければならない作業になっていない | □ |
| 身体的負担の大きい作業では休憩を取れる | □ |
| 健康や体力の状況を把握する方法を検討している | □ |
| 個々の状況に応じて作業方法を見直せる | □ |
高年齢者の転倒には、身体機能の変化が関係することがあります。
しかし、
ことで、対策できるところが増えてきます。
「年だから仕方がない」で終わらせず、年齢による変化があっても転びにくい職場にできないか。
高年齢者の転倒対策は、そこから考えることができます。
厚生労働省の高年齢者対策を見る
厚生労働省では、2026年4月から適用されている「高年齢者の労働災害防止のための指針」や、体力チェック、エイジフレンドリー補助金などの関連資料をまとめています。
「高年齢者の労働災害防止のための指針」を見る
2026年2月10日に公示された現在の指針はこちらから確認できます。
転倒防止の資料を使う
厚生労働省では、転倒防止のリーフレットや動画、「転倒等リスク評価セルフチェック票」なども公開しています。
安全管理者選任時研修でも確認できます
当協会の安全管理者選任時研修では、リスクアセスメントや職場の安全管理について学びます。
受講者様のご希望に合わせ、以下のタイプの講習会もご用意しています
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