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転倒事故は「本人の不注意」なのか?

店舗や飲食店、介護施設などで転倒事故が起きると、

「足元をよく見ていなかった」
「本人が不注意だった」

と考えてしまうことがあります。

確かに、本人の行動や身体の状態が転倒に関係することはあります。

しかし、それだけを原因にすると、対策も

「次から気をつけてください」

で終わってしまいます。

床は濡れていなかったか。通路に物が置かれていなかったか。荷物で足元が見えなくなっていなかったか。急いで移動しなければならない状況ではなかったか。

今回は、第三次産業で起きる転倒事故を、本人だけではなく職場の側からも見てみます。

第三次産業でも「転倒」は重要な課題

厚生労働省では、小売業、飲食店、社会福祉施設などを対象に、第三次産業の労働災害防止資料を多数公開しています。

特に小売業や介護施設では、転倒や、腰痛などの「動作の反動・無理な動作」といった労働災害への対策が課題となっています。

工場や建設現場のような大型の機械設備がなくても、

  • 店内を歩く
  • 商品を運ぶ
  • 厨房を移動する
  • 利用者を介助する
  • 清掃する

といった、日常的な作業の中で労働災害は発生します。

「普通の作業」だからこそ見落としやすい

毎日繰り返している作業では、その場所や方法に慣れてしまい、危険があること自体に気づきにくくなることがあります。

例えば、スーパーで転倒したら

※以下は、転倒事故の原因を考える方法を説明するために当協会で設定した例です。実際の災害事例を紹介したものではありません。

スーパーのバックヤードで、商品を運んでいた従業員が転倒したとします。

本人は、台車から商品を取り、急いで売場へ向かっていました。

このとき、

「急いでいて足元を見ていなかった」

という説明はできます。

しかし、そこで止めずに、もう少し周囲を見ます。

最初に見えたこと さらに確認すること
急いでいた なぜ急ぐ必要があったのか
足元を見ていなかった 荷物で前方や足元が見えにくくなっていなかったか
滑った 床に水や油がなかったか
物につまずいた 通路に商品や台車が置かれていなかったか
本人が気づかなかった 危険箇所が見えやすい状態だったか

このように見ると、

人の行動
だけでなく
その行動が起きた職場の条件

まで確認できます。

床が濡れていたら、誰の問題?

飲食店の厨房では、水や油が床に付着することがあります。

そこで転倒した場合、

「滑るから注意して歩く」

だけで対策することもできます。

しかし、さらに考えるなら、

  • なぜ床が濡れるのか
  • 水や油をすぐ処理できるか
  • 清掃する人やタイミングが決まっているか
  • 滑りにくい床材にできないか
  • 作業に適した履物を使用しているか

という確認ができます。

「滑った人」より先に「滑る床」を見る

本人の歩き方を確認することも必要ですが、普通に作業していても滑りやすい状態なら、職場側で改善できることがあります。

通路は本当に「通路」になっている?

店舗やバックヤードでは、限られたスペースを商品や資材の保管にも使用します。

すると、本来は人が歩く場所に、

  • 段ボール
  • 商品
  • 台車
  • かご
  • 清掃用具
  • 配線

などが一時的に置かれることがあります。

「少しの間だけ」であっても、そこを人が歩けば転倒のきっかけになります。

人が通る場所
↓
物を置かない場所として管理する

厚生労働省の第三次産業向け資料でも、整理・整頓・清掃・清潔といった4S活動や、通路・作業場所の管理が労働災害防止の基本として紹介されています。

清掃中も職場は動いている

床を清掃することは、転倒防止につながります。

一方、清掃直後の濡れた床そのものが転倒の原因になる場合もあります。

そこで、清掃をしているかどうかだけではなく、

  • いつ清掃するか
  • 清掃中に人が通るか
  • 乾くまで区画できるか
  • 必要な表示ができているか
  • 別の動線を確保できるか

まで確認します。

一つの対策が、別の危険をつくらないか

「清掃する」という正しい取組でも、方法や時間帯によっては別の転倒リスクが生まれることがあります。

荷物を持って歩くところまで見る

何も持たずに歩けば問題のない通路でも、荷物を運ぶ作業では条件が変わります。

例えば、

  • 荷物で足元が見えない
  • 両手がふさがっている
  • 重さでバランスを取りにくい
  • 台車を押しながら曲がる
  • 狭い通路ですれ違う

といった状況です。

そのため、転倒を考えるときは通路だけを見るのではなく、

その通路を、どんな状態で通るのか

まで確認します。

介護施設なら、利用者への対応中も見る

社会福祉施設では、労働者自身の移動だけでなく、利用者の介助をしながら移動することがあります。

その場合、

  • 自分の足元だけを見られない
  • 利用者の動きに合わせる必要がある
  • 身体を支えながら移動する
  • 急な動きに対応する

といった条件が加わります。

厚生労働省でも、社会福祉施設向けに転倒災害防止や腰痛予防、リスクアセスメント、危険の「見える化」などの資料を公開しています。

単に「職員が転ばないよう注意する」だけではなく、実際の介助作業を含めて危険を確認する必要があります。

「忙しい」は転倒と関係ない?

転倒事故の報告書には、床や段差については書かれていても、仕事の忙しさまでは書かれないことがあります。

しかし、

  • レジから急いでバックヤードへ戻る
  • 料理を急いで運ぶ
  • 品出しの時間が限られている
  • 利用者から呼ばれて急いで向かう

という状況では、歩く速さや周囲を見る余裕も変わります。

だからといって、

忙しいから転んだ

と決めるのではありません。

事故が起きたときに、急がざるを得ない仕事の流れになっていなかったかも確認項目に加えます。

「見える化」は注意書きを増やすことだけではない

厚生労働省では、小売業、飲食業、社会福祉施設向けに「職場の危険の見える化」の実践マニュアルを公開しています。

危険箇所を写真、イラスト、表示などによって分かりやすくすることは、対策の一つです。

ただし、

危険だから表示を貼る

だけで終わらせる必要はありません。

例えば床に水がたまるなら、

なぜ水がたまる?
↓
水が出ない・残らない方法にできない?
↓
残る危険は分かるようにする

※以下は厚生労働省が示した「見える化」の手順ではなく、危険の除去・低減と見える化を組み合わせる考え方として当協会で整理した例です。

という順番でも考えられます。

本人の行動も確認する

ここまで職場側の要因を見てきましたが、本人の行動を確認しなくてよいわけではありません。

例えば、

  • 走っていなかったか
  • 決められた通路を使っていたか
  • 適切な履物だったか
  • 大きすぎる荷物を持っていなかったか
  • 決められた作業方法を守っていたか

なども、原因を考えるための情報になります。

大切なのは、

本人か、職場か、どちらか一方に決めない

人の行動に問題があったとしても、なぜその行動になったのか、設備、環境、作業方法、仕事の進め方にも関係する要因がなかったかを確認します。

転倒した場所を実際に歩いてみる

事故後の確認では、報告書だけを見るのではなく、可能であれば実際の場所を歩いてみます。

同じ場所でも、

  • 開店前
  • 営業時間中
  • 品出し中
  • 清掃直後
  • 雨の日

では、状況が違うことがあります。

事故が起きたときに近い条件を考えると、普段の巡視では見つからなかった原因が見えることもあります。

職場で確認してみる

確認してみること 確認
通路に商品・台車・資材などが置かれていない □
床に水や油などが残っていない □
床が濡れた場合の処理方法が決まっている □
清掃中・清掃直後の通行方法を考えている □
不要な段差や床の凹凸がない □
荷物を持った状態でも足元や前方を確認できる □
台車を使う場所に十分な通路幅がある □
作業場所に合った履物を使用している □
急いで移動しなければならない仕事の流れになっていない □
危険箇所を労働者が分かるようにしている □
転倒事故が起きた場所を実際に確認している □
本人への注意だけで再発防止を終わらせていない □

事故が起きていなくても見てみる

転倒事故が起きた場所には、原因を調べるきっかけがあります。

しかし、事故が起きていない場所にも同じような条件があるかもしれません。

一か所で、

濡れた床で転倒した

のであれば、別の売場、別の厨房、別の施設でも、床が濡れる作業がないか探します。

一件の事故をその場所だけの問題にせず、似た条件を職場全体から探すことで、次の事故を防ぐ材料にできます。

「誰が転んだ?」から「どこで転び得る?」へ

転倒した人だけを見るのではなく、同じような条件が職場のほかの場所にもないかを探してみます。

「本人の不注意」で終わらせない

転倒事故には、本人の行動が関係することがあります。

しかし、

本人は何をしていた?
↓
その場所はどうなっていた?
↓
どんな作業をしていた?
↓
職場で変えられることはない?

と広げていくと、「注意してください」以外の対策が見つかることがあります。

本人の不注意だったかどうかを決めることより、次に同じ条件で転倒しない職場にできるか。

第三次産業の転倒事故も、その視点から見ることができます。

第三次産業の労働災害防止資料を見る

厚生労働省では、小売業、飲食店、社会福祉施設などを対象に、リスクアセスメント、危険の見える化、転倒防止などの資料をまとめて公開しています。

▶ 厚生労働省「第三次産業の労働災害防止対策について」を見る

「職場の危険の見える化」を使う

厚生労働省の実践マニュアルでは、小売業、飲食業、社会福祉施設を対象に、職場の危険を分かりやすく伝える方法が紹介されています。

使用されているイラストデータも公開されており、社内資料などへの活用が案内されています。

▶ 厚生労働省「職場の危険の見える化 実践マニュアル」を見る

SAFEコンソーシアムの取組事例を見る

厚生労働省のSAFEコンソーシアムでは、転倒や腰痛などの労働災害を減らすための企業・団体の取組事例などが紹介されています。

他社がどのような方法で職場を改善しているかを見ることも、自社の対策を考える参考になります。

▶ SAFEコンソーシアムを見る

当協会の第三次産業の教材を見る

当協会の安全管理者選任時研修テキストでも、第三次産業の労働災害の特徴や労働災害防止の考え方を紹介しています。

▶ 第三次産業の労働災害防止を見る


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