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【第1章】1 企業経営と安全③

1-4 労働災害発生に係る事業者責任

労働安全衛生法は「労働者の安全と健康の確保」と「快適な職場環境の形成」を目的とし、その主たる義務者は「事業者」であると定めています。ここでの事業者とは「事業を行う者で、労働者を使用するもの」であり、その事業を経営している者を指します。具体的には個人経営であればその事業主、株式会社などの法人の場合はその法人そのもののことです。つまり直接労働者を雇っている者に責任があるということです。

事業者責任

企業における現場の安全管理は、工場長や店長などの事業場のトップ、職場の長など現場の管理監督者に委ねられていることが多いが、労働災害が発生するなど安衛法による措置義務違反等が問われ、代表者はもちろんそれらの管理監督者が罰せられた場合には、それとは別に法人そのものも罰せられます(両罰規定)。

そもそもが事業者に対する義務規定違反ですので、個人が罰せられる場合は事業者である法人も必ず罰するという考え方です。

労働安全衛生法

第122条 法人の代表者又は法人若しくはその代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の業務に関して、第116条、第117条、第119条又は第120条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

なお、労働災害発生に伴う責任としては、刑事責任、民事責任、社会的責任、行政責任などが考えられます。


【刑事責任】

労働災害に対する刑事責任には以下の二種類があります。


① 労働安全衛生法違反

労働災害が発生したときには、労働安全衛生法の措置義務違反がないかどうかを労働基準監督署の職員が調査し、違反の疑いがある場合には労働基準監督官が特別司法警察職員として捜査を行います。

なお、労働安全衛生法違反の罰則には、罰金刑以外に懲役刑もありますが、そもそも違反を罰することを目的とした法律ではないので、例えば業務停止処分のような罰則は設けられていません。


※法的には安衛法の措置義務違反は労災の発生が無くても成立しますが、通常は指導や是正勧告・命令などの行政措置が講じられ、違反即司法上の捜査対象とされることはありません。


② 業務上過失致死傷罪

主に重篤な労働災害の発生に伴い、業務上過失致死傷罪など刑法に定める犯罪行為の疑いがある場合には、警察により捜査が行われます。

両者は同一の労働災害であっても根拠法令が違うため別々に捜査や検察官送致(書類送検)が行われ、また、被疑者自体が違う場合もあります。

例)廃棄物リサイクル会社の工場で男性作業員がショベルカーとトラックに挟まれて死亡した事故で、所轄の警察署はショベルカーの男性運転手を業務上過失致死容疑で地検に書類を送致し、労基署は会社と工場責任者を安衛法違反容疑で同じく送致した。

業務上過失致死傷罪と労働安全衛生法違反

【民事責任】

労働災害によって被災した労働者への補償としては労災保険によるものがありますが、場合によっては事業者等に対して被災者やその家族などから民事上の損害賠償請求訴訟が起こされることもあります。

また、損害賠償請求の根拠としては主に不法行為責任(民法第709条)と債務不履行(民法第415条)によるものがありますが、近年は債務不履行として「安全配慮義務違反」を根拠とした訴えが多くなっています。安全配慮義務に関しては平成20(2008)年に施行された労働契約法第5条においても「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と明文化されています。

安全配慮義務に関し、事業者の尽くすべき具体的措置の例としては以下の事項が考えられます。


①関係法令の遵守(努力義務を含む)

②行政通達や指針、監督署の指導などの遵守

③労働安全衛生マネジメントシステムの導入・実施

④リスクアセスメントの実施

⑤危険予知活動、4S活動などの自主的安全活動の実施

安全配慮義務の範囲

【社会的責任】

近隣の住民に大きな影響を及ぼすような有害物の発散や爆発事故など、場合によっては責任を追及されることがあります。労働災害を対象とした社会的責任としては、地域社会に対する雇用の創出先としての責任が挙げられますが、環境や品質などを含めより広範な意味で安全で安心な企業であることがますます求められています。


『CSR(Corporate Social Responsibility):企業の社会的責任』

利害関係者に対して説明責任を果たすという基本的な責任から、現在では社会に対する環境保護(保証)、従業員に対する労働安全衛生や人権の確保、地域に対する雇用創出、消費者に対する品質保証、取引先への配慮など、幅広い分野に拡大しています。

そのとらえ方や取り組み方は国や地域によって様々であり、それらの多様性を前提として国際標準化機構がISO26000(社会的責任)として平成22(2010)年11月にガイドラインを発行。JIS規格ではJISZ26000「社会的責任に関する手引」として平成24(2012)年3月に制定されています。

【行政責任】

法令違反や重大災害の発生によって事業の許認可を取り消されたり、公共事業への入札参加が停止されたりすることもあります。

例えば、重大な労働災害を発生させた企業へのペナルティとして、建設関係では一定期間の入札参加資格の停止・取り消し処分や、運輸関係での許可・認可の一時停止や取り消し処分などが挙げられます。


 

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