メニューボタン

労働災害の数字は「件数」だけ見ればいい?

労働災害の統計を見ると、まず目に入るのは「何人だったか」という数字です。

例えば、令和7年(2025年)の労働災害では、新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除き、

死亡者数
700人
休業4日以上の死傷者数
135,333人

となっています。

もちろん、件数を見ることは重要です。

しかし、

件数が多い
=
その職場・業種で最も災害が起こりやすい

とは限りません。

今回は、労働災害統計を「何件あったか」のその先まで見る方法を考えてみます。

まず、件数を見ることには意味がある

「件数だけでは分からない」といっても、件数が役に立たないわけではありません。

例えば、

  • 年間にどれだけの人が被災したか
  • 前年より増えたか減ったか
  • どの業種で多く発生しているか
  • どの事故の型が多いか

を見るには、実際の件数が基本になります。

令和7年の休業4日以上の死傷者数を事故の型別に見ると、

  • 転倒 37,195人
  • 動作の反動・無理な動作 22,166人
  • 墜落・転落 20,864人

となっています。

こうした数字を見ることで、実際に多く発生している災害は何かを確認できます。

件数は「起きた量」を見る数字

まず何がどれだけ起きているのかを見る。
件数は、労働災害統計を見るときの大切な入口です。

死亡者数と死傷者数は分けて見る

同じ労働災害統計でも、死亡災害と死傷災害では見えるものが違います。

令和7年の死亡災害を事故の型別に見ると、件数の多い順に、

  • 墜落・転落 186人
  • 交通事故(道路) 126人
  • はさまれ・巻き込まれ 117人

となっています。

一方、休業4日以上の死傷災害では、最も多いのは転倒です。

つまり、

多く発生している災害
と
死亡につながっている災害

では、見え方が違うことがあります。

※死亡者数と休業4日以上の死傷者数は、集計の基となる報告が異なるため、死亡者数が必ず死傷者数の内数になるわけではありません。

「休業4日以上」はすべての災害ではない

厚生労働省が毎年公表する「休業4日以上の死傷者数」は、事業者から提出された労働者死傷病報告をもとに集計されています。

名前のとおり、ここで集計されているのは、原則として休業4日以上となった死傷災害です。

したがって、

135,333人
=
職場で起きたけが・事故のすべて

という意味ではありません。

また、この統計には通勤中に発生した災害は含まれていません。

数字を見る前に「何を数えた数字か」を確認する

労働災害統計には、死亡災害、休業4日以上の死傷災害、労働災害動向調査など、それぞれ対象の異なる統計があります。
同じ「労働災害の数字」でも、何を対象にした数字なのかを確認します。

業種別の「件数」を見る

令和7年の休業4日以上の死傷者数を業種別に見ると、件数の多い順に、

  • 製造業 26,371人
  • 商業 23,128人
  • 保健衛生業 19,291人
  • 陸上貨物運送事業 15,632人

となっています。

この数字から、各業種でどれだけの人が被災しているかは分かります。

しかし、ここで一つ考えたいことがあります。

そこで働いている人の数は同じ?

働く人が多ければ、件数も多くなる可能性がある

仮に、二つの業種で同じ100件の災害が起きたとします。

業種 災害 働く人
A 100件 10万人
B 100件 1万人

件数だけを見ればどちらも100件です。

しかし、働いている人の数を考えると、同じ状況とはいえません。

※上記は、件数と発生率の違いを説明するために当協会で設定した例です。実際の業種別統計ではありません。

「多い」と「起こりやすい」は同じではない

ここが、件数を見るときの大切なところです。

件数が多い
と
発生率が高い

は、同じ意味ではありません。

労働者が多い業種では、それだけ災害の件数も多くなる可能性があります。

そこで、業種や規模の違いを考慮して見るために、

  • 年千人率
  • 度数率

などの「率」が使われます。

年千人率なら「働く人数」をそろえる

年千人率は、一定期間の死傷者数を労働者数で割り、労働者1,000人当たりに換算したものです。

つまり、

働く人の数が違う業種を
同じ物差しで見やすくする

ための指標の一つです。

件数を見ることと、発生率を見ることには、それぞれ役割があります。

件数と率は「どちらが正しい」ではない

件数を見れば、実際にどれだけの人が被災しているかが分かります。
率を見れば、労働者数や労働時間などの違いを調整して比較しやすくなります。
知りたいことによって使い分けます。

「何が起きたか」まで見る

総件数だけでなく、事故の型に分けて見ると、対策を考えやすくなります。

例えば、

  • 転倒
  • 墜落・転落
  • はさまれ・巻き込まれ
  • 切れ・こすれ
  • 交通事故
  • 動作の反動・無理な動作

などです。

同じ100件でも、その中身がすべて転倒なのか、機械へのはさまれが多いのかでは、必要な対策は変わります。

総件数を見る
↓
どんな災害が多いかを見る

「何が災害のもとになったか」も見られる

「職場のあんぜんサイト」の統計では、起因物によって死傷者数を見ることもできます。

起因物とは、災害をもたらすもととなった機械、設備、物質、環境などを分類したものです。

例えば、

  • 機械
  • 車両
  • 用具
  • 材料
  • 仮設物・建築物・構築物
  • 環境等

といった視点から統計を見ることができます。

「何件だったか」から、何によって起きているのかへ一段掘り下げます。

年齢別に見ると違うものが見える

労働災害統計は、年齢階級別にも確認できます。

例えば、高年齢労働者については、休業4日以上の死傷者に占める60歳以上の割合が近年増加傾向にあることが厚生労働省から示されています。

ただし、ここでも件数だけを見るのではなく、

その年代で働く人そのものが増えていない?

という視点が必要になります。

年齢別についても、現在は休業4日以上の死傷者数だけでなく、労働時間を用いた度数率を確認できる統計が公開されています。

事業場規模でも分けて見る

労働災害統計には、事業場の規模別に集計されたものもあります。

また、労働災害動向調査では、事業所規模別の度数率・強度率も公表されています。

つまり、全国の総数だけでなく、

  • 業種
  • 事業場規模
  • 年齢
  • 事故の型
  • 起因物

など、自社に近い条件まで少しずつ絞って見ることができます。

前年比だけを見ると見落とすこともある

統計資料には、

前年比○%増
前年比○%減

という数字もよく出てきます。

前年との比較は重要ですが、1年間だけではたまたま大きく増減することもあります。

例えば、件数の少ない区分では、数件増えただけでも増加率が大きくなることがあります。

そこで、必要に応じて

  • 実際に何件増減したのか
  • 数年間ではどう動いているか
  • 長期的な傾向はどうか

も確認します。

「○%増」だけでなく元の件数を見る

割合の変化が大きくても、実際には数件の差ということがあります。
反対に、増加率は小さくても母数が大きければ多くの人が関係している場合があります。

速報値と確定値を混ぜない

労働災害の発生状況は、年の途中でも速報値として公表されています。

その後、集計が進み、年間の確定値が公表されます。

そのため、数字を比較するときは、

  • 速報値か確定値か
  • 何月までの数字か
  • 同じ期間を比較しているか

を確認します。

例えば、8月末までの速報値と前年1年間の確定値をそのまま比べても、同じ条件の比較にはなりません。

感染症を含むかどうかも確認する

労働災害統計では、時期によっては新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害の扱いにも注意が必要です。

令和7年の厚生労働省の労働災害発生状況では、死亡者数と休業4日以上の死傷者数について、新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除いて集計しています。

過去の年との推移を確認するときも、統計の注記を確認して、同じ条件の数字かを見る必要があります。

全国の数字だけで自社の対策を決めない

全国で転倒災害が多いからといって、すべての職場で転倒が最大の課題とは限りません。

例えば、自社では、

  • 機械へのはさまれが繰り返されている
  • 荷役作業での墜落が多い
  • 腰痛につながる作業が多い
  • 特定の部署に災害が集中している

かもしれません。

公的な統計は、自社の状況を見るための比較材料として使います。

全国では何が起きている?
↓
同じ業種では?
↓
では、自社では?

例えば「転倒が多い」と分かったら

※以下は、労働災害統計の使い方を説明するために当協会で設定した例です。厚生労働省がこの分析手順を指定しているものではありません。

統計を見て、自社と同じ業種で転倒災害が多いことが分かったとします。

見る段階 確認すること
全国 転倒はどの程度発生しているか
同じ業種 自社と近い業種では何が多いか
自社 実際に転倒やヒヤリ・ハットが起きているか
現場 滑り、段差、通路、照明などに問題がないか
改善 自社で優先して改善するものを決める

統計から分かるのは、「どこを見てみるか」という入口です。

最後は、実際の職場へ戻って確認します。

職場で確認してみる

確認してみること 確認
死亡者数と死傷者数を分けて見ている □
何を対象にした統計か確認している □
総件数だけでなく事故の型も見ている □
業種別の数字を確認している □
必要に応じて年齢・規模・起因物などでも見ている □
件数と発生率を区別している □
前年比だけでなく数年間の推移も確認している □
速報値と確定値を区別している □
公的統計と自社の災害を比較している □
数字を具体的な職場の確認や改善につなげている □

件数は「入口」。そこから分けて見る

労働災害の件数は、実際にどれだけの人が被災したのかを示す重要な数字です。

ただし、それだけですべてが分かるわけではありません。

何件起きた?
↓
どんな災害?
↓
誰に・どこで起きている?
↓
規模をそろえるとどう見える?

件数を見る。
中身を見る。
そして、必要なら「率」で比べる。

労働災害統計は、数字を一つ見るより、いくつかの角度から見ることで職場で使える情報になっていきます。

最新の労働災害発生状況を見る

厚生労働省では、毎年の死亡災害、休業4日以上の死傷災害について、業種別・事故の型別などの確定値を公表しています。

▶ 厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」を見る

労働災害統計を詳しく見る

「職場のあんぜんサイト」では、労働災害について、業種、事故の型、起因物、年齢、事業場規模などの統計を確認できます。

▶ 職場のあんぜんサイト「労働災害統計」を見る

「率」で見る方法も確認する

件数だけでは比較しにくい業種や事業場規模の違いを見るために、度数率や強度率などの指標も使われています。

▶ 「度数率」と「強度率」は何を表している?


← 公的機関の関連資料へ戻る

このページをシェアする

講習会をお探しですか?

 

▲ページ先頭へ