厚労省のヒヤリ・ハット事例でKYTをやってみる
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、さまざまなヒヤリ・ハット事例がイラスト付きで掲載されています。
事例を読んで「危なかったね」で終わることもできますが、少し使い方を変えると、KYT(危険予知トレーニング)の題材としても利用できます。
「職場のあんぜんサイト」のヒヤリ・ハット事例は、厚生労働省がKYT教材として公開しているものではありません。
本記事では、公開されている事例を当協会がKYTの題材として活用する方法を紹介しています。
今回は、厚生労働省が公開している実際のヒヤリ・ハット事例を一つ使って、当協会の「安全管理者選任時研修」テキストで紹介している基礎4ラウンド法を実際にやってみます。
今回使うヒヤリ・ハット事例
今回使うのは、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に掲載されている次の事例です。
フォークリフトが方向転換のためバックしてきて
激突しそうになった
食料品製造業の作業場で、フォークリフトが荷を移動したあと、方向転換のため後退しながら左へ旋回したところ、進行方向にいた人と激突しそうになった事例です。
この事例には、厚生労働省が示した原因と対策も掲載されています。KYTとして使うときは、まずイラストと「ヒヤリ・ハットの状況」だけを見て、自分たちで危険を考えてから原因・対策を確認してみます。
KYTは何をするもの?
KYTは「危険予知トレーニング」の略です。
当協会の安全管理者選任時研修テキストでは、作業の状況の中に「どんな危険が潜んでいるか」を考える方法として、基礎4ラウンド法を紹介しています。
| 段階 | 考え方 | 問いかけ |
|---|---|---|
| 1R | 現状把握 | どんな危険が潜んでいる? |
| 2R | 本質追求 | これが危険のポイントだ |
| 3R | 対策樹立 | あなたならどうする? |
| 4R | 目標設定 | 私たちはこうする |
では、このフォークリフトの事例で実際に進めてみます。
1R どんな危険が潜んでいる?
まず、イラストと状況を見ながら、気づいた危険をできるだけ出します。
最初から一つに絞る必要はありません。
当協会テキストでは、危険要因と、その結果どうなるかを具体的に表現します。
今回の事例なら、例えば次のような意見が出るかもしれません。
| 例 | 考えられる危険 |
|---|---|
| 1 | フォークリフトが後退するとき、後方の歩行者に気づかず激突する |
| 2 | 歩行者がフォークリフトの動きに気づかず、進路に入り激突される |
| 3 | フォークリフトが旋回するとき、車体後部が歩行者側へ振られ接触する |
| 4 | フォークリフトと歩行者が同じ作業区域を通行しているため、互いの動線が重なり激突する |
※上の内容は、厚生労働省が示した原因ではなく、この事例をKYTの題材として使った場合の当協会による検討例です。
1Rでは、他の人と違う意見が出ても構いません。いろいろな人が、どこを危険だと感じたかを出すこと自体がトレーニングになります。
2R これが危険のポイントだ
1Rで出した危険の中から、重要だと思うものを絞り込みます。
今回の例では、仮に、
後方の歩行者に気づかず激突する
を「危険のポイント」にしたとします。
KYTでは、参加者全員で話し合って、今回の作業で特に重要な危険は何かを決めます。
3R あなたならどうする?
次に、選んだ危険のポイントについて具体的な対策を考えます。
ここでも、最初から一つの答えに決めません。
| 例 | 対策案 |
|---|---|
| 1 | フォークリフトを動かす前に周囲の人の位置を確認する |
| 2 | 歩行者とフォークリフトの通行区域を分ける |
| 3 | 必要な場所には誘導する人を配置する |
| 4 | フォークリフトの運行方法や作業計画を事前に確認する |
※これもKYTとして考えた例です。実際の作業では、設備、作業方法、関係法令等を確認して必要な措置を講じます。
当協会のテキストでは、3Rの対策は「~しない」ではなく「~する」という能動的な表現で考えることとしています。
のように、実際に何をするのかが分かる表現にします。
4R 私たちはこうする
3Rで出した対策から、チームで実行するものを一つに絞ります。
例えば、今回のKYTなら、
周囲を確認してから動かそう、ヨシ!
のような行動目標が考えられます。
大切なのは、長い注意事項を作ることではなく、その作業をするとき、自分たちが何を実行するかを決めることです。
ここで厚生労働省の「原因」を見てみる
4Rまで終わったら、ここで初めて「職場のあんぜんサイト」に掲載されている原因を確認してみます。
この事例では、原因として次の内容が挙げられています。
- 作業者がフォークリフトの作業場を自由に行き来できる状態だった
- フォークリフトの誘導員が配置されていなかった
- フォークリフトの作業計画が十分に定められていなかった
自分たちのKYTで、ここまで気づいていたでしょうか。
例えば、
という使い方ができます。
厚生労働省の「対策」とも比べてみる
この事例では、対策として、
- フォークリフトの作業場に労働者を立ち入らせない
- フォークリフトの作業計画を定め、関係者へ周知する
- フォークリフト運行時には誘導員を配置する
ことが挙げられています。
ここで、自分たちが3Rで出した対策と比べてみます。
答え合わせではありません。
「同じ答えが出なかったから失敗」ではありません。
自分たちは何に気づき、何に気づかなかったのかを見るところに意味があります。
事例の「対策」を先に読むと、KYTになりにくい
職場のあんぜんサイトには、原因も対策も最初から掲載されています。
それは非常に参考になる情報ですが、KYTとして使うなら、最初から答えを読んでしまわない方がトレーニングになります。
こうすれば、一つのヒヤリ・ハット事例を読む資料から、考える教材に変えることができます。
別の業種の事例でも使える
今回の事例は食料品製造業のフォークリフト作業です。
しかし、KYTの題材を自分の業種だけに限定する必要はありません。
例えば、
| 人と車両の動線が交差する | 後退時に見えにくい場所がある |
| 作業区域へ人が入れる | 誘導や合図が必要な作業がある |
といった条件は、倉庫、工場、店舗、物流施設など、さまざまな職場にあります。
同じ機械があるかではなく、似た危険があるかという見方をすると、使える事例が増えてきます。
451件を全部見る必要はない
「職場のあんぜんサイト」には、墜落・転落、転倒、飛来・落下、はさまれ・巻き込まれ、感電・火災など、さまざまなヒヤリ・ハット事例が掲載されています。
全部を見る必要はありません。
自分の職場で扱っている機械、設備、作業などに近いものを一つ選ぶだけでもKYTの題材になります。
| 自分の職場で気になること | 探してみる事例 |
|---|---|
| 人と車両 | フォークリフト、トラックなどの接触事例 |
| 通路や床 | 転倒事例 |
| 機械作業 | はさまれ・巻き込まれ事例 |
| 高所作業 | 墜落・転落事例 |
| 荷の取扱い | 飛来・落下、崩壊・倒壊事例 |
一つの事例でやってみる
| 確認してみること | 確認 |
|---|---|
| 自分の職場に近いヒヤリ・ハット事例を一つ選んだ | □ |
| 原因・対策を見る前にイラストと発生状況を確認した | □ |
| 1Rで複数の危険を出した | □ |
| 2Rで危険のポイントを絞った | □ |
| 3Rで実行できる対策を考えた | □ |
| 4Rでチームの行動目標を決めた | □ |
| 最後に公開されている原因・対策と比較した | □ |
| 自分たちが気づかなかった視点を確認した | □ |
KYTの教材を毎回ゼロから作らなくても、公開されているヒヤリ・ハット事例を題材として活用できます。
イラストと状況を見て、まず自分たちで危険を考える。
危険のポイントを絞り、対策と行動目標を決める。
そして最後に、公開されている原因・対策と比べてみる。
そうすると、厚生労働省のヒヤリ・ハット事例を、「読む資料」から「危険を見つける練習教材」として使うことができます。
講習テキストでも確認できます
当協会の「安全管理者選任時研修」テキストでは、KY(危険予知)活動の目的、基礎4ラウンド法、短時間KY、現地KYなどを解説しています。
ヒヤリ・ハットを集めた後の使い方も確認する
自社で集めたヒヤリ・ハットについて、現場確認、優先順位、対策、情報共有などへつなげる方法はこちらで紹介しています。
公的なヒヤリ・ハット事例を探す
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」では、事故の型ごとにヒヤリ・ハット事例を確認できます。
受講者様のご希望に合わせ、以下のタイプの講習会もご用意しています
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