法律だけ読んでも分からないとき、どこを見る?
労働安全衛生法を調べていて、条文を読んだのに、
となることがあります。
例えば条文の中に、
- 政令で定める
- 厚生労働省令で定める
- 厚生労働大臣が定める
- 必要な措置を講じなければならない
と書かれていて、具体的な対象や方法がその条文だけでは分からないことがあります。
これは、法律の書き方として珍しいことではありません。
労働安全衛生法の制度は、法律だけではなく、
までたどることで、具体的な内容が見えてくる場合があります。
※上記は、法令等を調べる際の流れを分かりやすく示したものです。各文書の法的な上下関係を示すものではありません。実際には、条文の委任先や各文書の根拠・内容を確認します。
今回は、法律だけ読んでも分からないときに、次にどこを見るのかを整理してみます。
法律は「制度の骨組み」を書いていることがある
例えば、労働安全衛生法第59条には、雇入れ時の安全衛生教育について、
と定められています。
ここで分かるのは、
- 事業者に教育義務があること
- 雇入れ時が対象であること
- 業務に関する安全衛生教育であること
などです。
しかし、
までは、この条文だけでは分かりません。
「省令で定める」と書いてあったら、省令を見る
先ほどの第59条には、「厚生労働省令で定めるところにより」と書かれています。
そこで、次に労働安全衛生規則を確認します。
労働安全衛生規則第35条では、雇入れ時・作業内容変更時の教育について、
- 機械等、原材料等の危険性・有害性と取扱い
- 安全装置、保護具等の性能と取扱い
- 作業手順
- 作業開始時の点検
- 疾病の原因と予防
- 整理、整頓及び清潔の保持
- 事故時等の応急措置及び退避
- その他必要な事項
が定められています。
教育を行う義務
具体的な教育事項
「政令で定める」「厚生労働省令で定める」「厚生労働大臣が定める」という言葉が出てきたら、そこで読み終わらず、何に委ねられているのかを確認します。
「政令で定める」なら施行令を見る
法律の中には、対象となる業務や設備などを政令で定めているものもあります。
労働安全衛生法の場合、代表的な政令として労働安全衛生法施行令があります。
法律に、
と書いてあれば、施行令の対応する条文に具体的な対象が定められていないかを確認します。
つまり、
何を規制するか
対象・範囲などを具体化
手続・方法・具体的措置などを規定
という形になっている場合があります。
※すべての制度が必ず「法律→政令→省令」という順番で規定されているわけではありません。実際には、各条文が何に委任しているかを確認します。
「厚生労働大臣が定める」と書いてあったら?
さらに具体的な事項が、告示などで定められている場合があります。
例えば、
- 対象となる物質
- 濃度などの数値
- 検査や測定の基準
- 講習や教育の具体的な内容
- 一定の技術的な基準
などについて、法律や省令からの委任を受けた告示が関係することがあります。
そのため、条文中に、
と出てきた場合は、その名称で厚生労働省の法令等データベースを検索してみます。
「告示」と「通知」は同じものではない
ここは、原典を調べるときに混同しやすいところです。
厚生労働省の法令等データベースでも、
| 文書 | データベース上の主な扱い |
|---|---|
| 法律・政令・省令・告示 | 法令検索から探す |
| 訓令・通知等 | 通知検索から探す |
と分かれています。
名前が似ていても、同じ位置付けの文書ではありません。
法令、告示、通知、指針、ガイドライン、Q&Aなどは、それぞれ役割や根拠が異なります。
名称だけで法的な位置付けを決めず、根拠となる法令や文書の内容も確認します。
法令を読んでも意味が分かりにくいときは「通知」を探す
法律、政令、省令までたどっても、
ということがあります。
そこで確認したいのが、施行通知や関係通知です。
通知には、
- 改正の趣旨
- 規定を設けた背景
- 対象範囲の考え方
- 用語の解釈
- 具体的な取扱い
- 施行に当たっての留意事項
などが書かれていることがあります。
法律の文章を読んだだけではつかみにくかった意味が、通知を読むと見えてくることがあります。
例えば「なぜこの規定ができた?」を知りたいとき
法令の条文は、基本的には現在のルールを確認するためのものです。
そのため、条文だけを見ても、
- なぜ改正されたのか
- どんな問題を解決しようとしたのか
- 従来とどこが変わったのか
が十分には分からない場合があります。
そうしたときは、改正時の「○○の施行について」などの通知を確認します。
「指針」も確認する
労働安全衛生分野では、指針が重要な役割を持つことがあります。
例えば、労働安全衛生法第28条では、一定の危害防止措置を適切かつ有効に実施するため、厚生労働大臣が技術上の指針を公表することとされています。
つまり、「指針」という名前だからといって、すべてを単なる参考資料として同じように扱えるわけではありません。
指針を見るときは、
- 何を根拠に作られた指針なのか
- 誰を対象としているのか
- どの法令上の措置と関係するのか
- 適用日や改正日
を確認します。
労働安全衛生法そのものに指針の公表や指導等について規定されている場合もあります。
その指針がどの規定に基づくものなのかを一緒に確認します。
ガイドラインは「何を根拠にしているか」を見る
厚生労働省では、さまざまな安全衛生対策についてガイドラインを公表しています。
ガイドラインには、
- 法令上の義務を分かりやすく整理したもの
- 法令上の措置を実施する際の考え方を示したもの
- 望ましい取組方法を示したもの
などがあります。
そのため、
=
すべて同じ法的義務
とは限りません。
反対に、ガイドラインの中に法令で義務付けられている事項が説明されていることもあります。
義務なのか、努力義務なのか、行政上示された取組方法なのかは、根拠となる法令まで戻って確認します。
Q&Aは「具体的な疑問」を調べるときに使いやすい
法令や通知を読んでも、実際の場面に当てはめると疑問が残ることがあります。
厚生労働省では、安全衛生に関するQ&Aも公開しています。
また、大きな法改正の際には、その改正についてのQ&A集が作られることもあります。
Q&Aは、
- この場合も対象になる?
- どの数字を使う?
- いつから適用される?
- 具体的にどのように扱う?
といった疑問を調べるときに役立つことがあります。
Q&Aは具体的で分かりやすい資料ですが、必要に応じて、その回答の根拠となる法令・通知も確認します。
パンフレットやリーフレットは「入口」に使う
法令改正について調べるとき、最初から条文を読み始めると、全体像がつかみにくいことがあります。
その場合は、厚生労働省の
- 改正概要
- パンフレット
- リーフレット
- 説明資料
を最初に見る方法もあります。
これらは、
ための入口として使えます。
ただし、パンフレットは制度を分かりやすくまとめた資料です。
細かな例外、経過措置、定義などを確認するときは、法令や通知の原文まで戻ります。
法改正の特設ページは意外と便利
大きな法改正では、厚生労働省が改正内容をまとめた特設ページを作ることがあります。
例えば、労働安全衛生法の改正ページには、
- 法律
- 政令
- 省令
- 告示
- 公示
- 関連通達
- リーフレット等
がまとめて掲載されていることがあります。
一つずつ検索するより、改正法のページを入口にした方が関係資料をまとめて確認しやすい場合があります。
検索結果の上から読むだけでは足りないことがある
インターネットで法令について検索すると、
- 企業の解説
- 業界団体の記事
- 専門家のコラム
- ニュース記事
が先に出てくることがあります。
内容を理解する入口としては便利です。
しかし、法令上の義務や対象範囲を確認するときは、
まで確認します。
根拠として「安衛法第○条」「安衛則第○条」「基発○○号」などが示されていれば、その原文を確認します。
古い解説を読むときは「現在も同じ?」を見る
検索で見つかった資料が数年前のものだった場合、注意が必要です。
当時は正しかった説明でも、その後、
- 法律が改正された
- 施行令が改正された
- 省令が改正された
- 告示が改正された
- 通知が改正・廃止された
- 新しい指針が公表された
可能性があります。
そのため、古い資料を見つけたら、まず現在の条文を確認します。
まず条文中の「手掛かり」を探す
法律を読んで分からないときは、すぐ検索を始める前に、条文の中にある次の手掛かりを探します。
| 条文にある言葉 | 次に確認するもの |
|---|---|
| 政令で定める | 施行令などの政令 |
| 厚生労働省令で定める | 労働安全衛生規則・各特別規則など |
| 厚生労働大臣が定める | 関係する告示等 |
| 指針を公表する | 該当する指針・公示 |
| 具体的な意味が分からない | 施行通知・関係通知 |
| 実際の取扱いが分からない | 通知、Q&A、公式資料 |
例えば「教育は何をすればいい?」なら
※以下は、法令を調べる流れを分かりやすくするために当協会で整理した例です。
教育義務を確認
教育事項を確認
趣旨や具体的な取扱いを確認
「何が義務か」は最後にもう一度法令へ戻る
通知、ガイドライン、Q&A、パンフレットを読むと、制度はかなり分かりやすくなります。
ただし、実際に、
- 事業者に義務があるのか
- 誰が対象なのか
- いつから適用されるのか
- 例外はあるのか
- 罰則が関係するのか
を確認するときは、最後にもう一度現在の法令本文へ戻ります。
最初から難しい条文だけで理解しようとする必要はありません。
公式の解説資料で全体をつかみ、通知で趣旨を確認し、最後に法令本文で根拠を確認する方法もあります。
「どの文書が上?」だけで判断しない
法令を調べていると、
という考え方になりがちです。
もちろん、法律・政令・省令と行政機関の通知は同じものではありません。
しかし、実務で知りたいのは、単に文書を順位付けすることではなく、
- 法令は何を義務付けているか
- その具体的内容はどこで定められているか
- 行政はその規定をどう説明しているか
- 自社にはどの部分が関係するか
です。
それぞれの文書の役割を分けて読む方が、実際の確認には役立ちます。
迷ったら、この順番で探してみる
| 順番 | 確認するもの |
|---|---|
| 1 | e-Gov等で現在の法律の条文を確認する |
| 2 | 「政令で定める」「省令で定める」などの委任先を確認する |
| 3 | 関係する政令・省令・告示を確認する |
| 4 | 施行通知・関係通知を確認する |
| 5 | 指針・ガイドライン・Q&A・公式資料を確認する |
| 6 | 現在の法令に戻り、義務・対象・施行日等を最終確認する |
職場で確認してみる
| 確認してみること | 確認 |
|---|---|
| 現在の法律の条文を確認している | □ |
| 「政令で定める」「省令で定める」などを読み飛ばしていない | □ |
| 関係する政令・省令を確認している | □ |
| 関係する告示がないか確認している | □ |
| 施行通知・関係通知を確認している | □ |
| 指針・ガイドラインの根拠を確認している | □ |
| Q&Aやパンフレットだけで判断していない | □ |
| 古い資料の場合は後の改正を確認している | □ |
| 義務・努力義務・行政上の取扱いを区別している | □ |
| 最終的に一次情報まで戻って確認している | □ |
法律は「答え」ではなく「入口」になることがある
法律の条文を読んで、すぐ意味が分からなかったからといって、読み方を間違えているとは限りません。
その条文自体が、
という入口になっている場合があります。
一つの条文で分からなければ、その条文がどこを指しているのかを見る。
それだけでも、法令を調べるときの迷子になりにくくなります。
現在の法令を確認する
e-Gov法令検索では、現在の労働安全衛生法や施行令・省令などを確認できます。
厚生労働省の法令・通知を探す
厚生労働省法令等データベースでは、法律・政令・省令・告示等と、通知を分けて検索できます。
労働安全衛生規則を確認する
法律で「厚生労働省令で定める」とされている事項の多くは、労働安全衛生規則などで具体化されています。
安全衛生に関するQ&Aを見る
厚生労働省では、安全衛生に関する具体的な疑問についてQ&Aを公開しています。
最近の労働安全衛生法改正をまとめて見る
大きな法改正では、法律だけでなく、政令・省令・告示・公示・関連通達等がまとめて掲載されている場合があります。
施行通知の探し方も確認する
法令の趣旨や具体的な取扱いを確認するために、施行通知を実際に探す方法を別の記事で紹介しています。
▶ 施行通達はどこにある? 労働安全衛生法の通知を実際に探してみる
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