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実戦編 第5章:安全管理者選任の手順

実践編 第5章:安全管理者選任の手順

本章のポイント

製造業・建設業等における安全管理者の選任手順を、資格取得から届出までを解説します。

  • 安全管理者とは?義務規模と役割
  • 対象業種の確認
  • 資格要件と取得方法
  • 必要な選任人数の計算方法
  • 安全管理者講習の受講手順
  • 選任手続きと社内辞令
  • 労働基準監督署への届出(様式第3号)
  • よくある選任ミスと対策

1. 安全管理者とは?義務規模と役割

⚠️ 重要ポイント

常時使用する労働者が50人以上の特定の業種(製造業、建設業等)では、安全管理者の選任が義務付けられています。

選任義務が発生してから14日以内に選任し、労働基準監督署に届け出る必要があります(違反時は50万円以下の罰金)。

安全管理者の主な職務

安全管理者は、以下の業務を担当します:

  • 作業場の巡視:少なくとも週1回、作業場を巡視し、設備や作業方法の危険性を確認
  • 安全装置・保護具の点検:機械設備の安全装置、労働者の保護具の状態を確認
  • 作業環境の整備:通路、階段、避難経路などの安全確保
  • 安全教育の実施:労働者への安全衛生教育の企画・実施
  • 災害発生時の対応:労働災害が発生した際の原因調査と再発防止策の立案
  • 安全委員会の運営:委員として参加し、安全に関する事項を審議

衛生管理者との違い

  • 安全管理者:労働災害の防止(機械設備の安全、作業方法の安全など)が主な役割
  • 衛生管理者:労働者の健康管理(健康診断、作業環境測定など)が主な役割
  • 業種による違い:安全管理者は特定の業種のみ義務、衛生管理者は全業種で義務

2. 対象業種の確認

安全管理者の選任が義務付けられているのは、労働安全衛生法施行令第2条で定められた以下の業種です。

安全管理者の選任が必要な業種(50人以上)

業種分類 具体例
林業 木材の伐採、造林、林道整備など
鉱業 石炭・鉱石の採掘、石油・天然ガスの採取など
建設業 建築工事、土木工事、設備工事、解体工事など
運送業 道路貨物運送業、港湾運送業など
清掃業 廃棄物処理業、し尿処理業など
製造業(全般) 食品製造、繊維工業、化学工業、金属製品製造、機械器具製造、自動車製造など
電気業 発電所、変電所の運営など
ガス業 都市ガス製造・供給など
自動車整備業 自動車の整備・修理など
機械修理業 産業用機械の修理など

⚠️ 注意:製造業は「ほぼすべて」が対象

製造業の中で唯一の例外は「労働安全衛生規則第2条第3号に該当する製造業」(出版業・印刷業の一部など)です。

基本的に、製造業であれば安全管理者の選任が必要と考えてください。

対象外の業種(例)

以下の業種では、安全管理者の選任は不要です(衛生管理者は必要):

  • 卸売業・小売業
  • 金融業・保険業
  • 不動産業
  • 飲食店・宿泊業
  • 医療業・福祉業
  • 教育・学習支援業
  • 情報通信業(システム開発、データセンター運営など)

✅ 自社が対象業種かの確認方法

  1. 会社の登記簿謄本または定款で主たる事業内容を確認
  2. 日本標準産業分類(総務省)で自社の業種コードを確認
  3. 不明な場合は、所轄の労働基準監督署に問い合わせ

3. 資格要件と取得方法

安全管理者になるには、一定の学歴・実務経験に加えて、安全管理者選任時研修(講習)を修了する必要があります。

安全管理者の資格要件

学歴・資格 必要な実務経験
理科系統の大学または高等専門学校卒業 産業安全の実務経験2年以上
理科系統の高等学校卒業 産業安全の実務経験4年以上
厚生労働大臣が定める者
(中央労働災害防止協会の「安全管理者選任時研修」修了者)
産業安全の実務経験2年以上
(学歴不問)
労働安全コンサルタント 実務経験不要

⚠️ 「産業安全の実務経験」とは?

以下のような業務が該当します:

  • 製造現場での生産・製造業務
  • 建設現場での施工管理・作業指揮
  • 機械設備の保守・点検業務
  • 安全衛生管理業務(安全パトロール、KY活動など)
  • 品質管理、生産管理など製造に関わる業務

※ 実務経験は会社が証明書を発行します

最も一般的な取得ルート:安全管理者選任時研修

実務では、中央労働災害防止協会(中災防)が実施する「安全管理者選任時研修」を受講するのが最も一般的です。

研修の概要

  • 実施機関:中央労働災害防止協会(中災防)、各地の労働災害防止協会
  • 研修期間:2日間(14時間)
  • 受講料:約18,000円~23,000円(地域により異なる)
  • 受講資格:産業安全の実務経験2年以上(学歴不問)

研修の内容

  1. 労働安全衛生法令:安全管理者の職務、安全基準など
  2. 安全管理の進め方:危険予知、リスクアセスメント、安全パトロールの実施方法
  3. 機械設備の安全:機械の安全装置、点検方法
  4. 作業環境の安全:通路、照明、保護具の管理
  5. 災害事例と対策:過去の労働災害事例から学ぶ再発防止策

受講申込の流れ

  1. 中央労働災害防止協会のWebサイトで開催日程を確認
  2. オンラインまたは郵送で受講申込
  3. 会社が「実務経験証明書」を発行(申込時に提出)
  4. 受講料を払込
  5. 2日間の研修を受講(全日出席が必須)
  6. 修了証を受領

労働安全コンサルタント資格

労働安全コンサルタント試験に合格すると、実務経験なしで安全管理者になれます。

  • 試験実施:公益財団法人 安全衛生技術試験協会
  • 受験資格:学歴・実務経験に応じた要件あり(大卒で実務5年以上など)
  • 合格率:約25~30%(難関資格)

4. 必要な選任人数の計算方法

選任が必要な安全管理者の人数は、事業場の労働者数と業種に応じて決まります。

労働者数 必要な安全管理者数 補足
50人~299人 1人以上 他の業務との兼任可能
300人~999人 2人以上 他の業務との兼任可能
1,000人~1,999人 3人以上 うち1人は専属
2,000人~2,999人 4人以上 うち1人は専属
3,000人以上 5人以上 うち2人は専属

実務のコツ

  • 余裕を持った選任:将来の人員増加を見越して、必要数より1人多めに選任しておくと安心です
  • 複数事業場:同じ会社でも、異なる場所にある事業場ごとに安全管理者が必要です
  • 派遣労働者のカウント:派遣労働者も事業場の労働者数に含まれるため、注意が必要です

専属と兼任の違い

専属と兼任の定義

  • 専属安全管理者:安全管理業務のみに専念し、他の業務を兼任できない
  • 兼任可能:製造管理、品質管理などの他の業務と兼任できる

5. 安全管理者講習の受講手順

安全管理者選任時研修(講習)の受講手順を詳しく解説します。

ステップ1:開催日程の確認

✓ 日程確認チェックリスト

中央労働災害防止協会のWebサイトにアクセス
自社の所在地に近い開催地を確認
希望日程を選択(2日間連続で受講)

ステップ2:実務経験証明書の準備

会社に「実務経験証明書」を発行してもらいます。

実務経験証明書の記載事項

  • 受講者氏名
  • 生年月日
  • 在籍期間(○年○月~○年○月)
  • 従事した業務内容(製造業務、施工管理など)
  • 産業安全の実務経験年数(2年以上)
  • 会社名、代表者名、会社印

ステップ3:受講申込

✓ 申込チェックリスト

オンライン申込:協会のWebサイトから申込フォームに入力
郵送申込:申込用紙と実務経験証明書を郵送
受講料を払込(約18,000円~23,000円)

ステップ4:研修受講(2日間)

研修は2日間(14時間)で、全日出席が必須です。

【1日目】

  • 労働安全衛生法令の基礎知識
  • 安全管理の進め方
  • 危険予知活動(KYT)の実践

【2日目】

  • 機械設備の安全対策
  • 作業環境の安全管理
  • 災害事例研究
  • 修了試験(簡易的なテスト)

✅ 修了のポイント

  • 2日間すべての講義に出席することが必須(遅刻・早退不可)
  • 修了試験は基本的な知識を問うもので、真面目に受講していれば合格できる
  • 修了証は研修終了後、即日または後日郵送で交付

ステップ5:修了証の受領と保管

研修を無事修了すると、「安全管理者選任時研修修了証」が交付されます。

  • 修了証のコピーを会社(人事部・総務部)に提出
  • 会社が修了証情報を管理台帳に記録
  • 原本は本人が大切に保管

6. 選任手続きと社内辞令

資格を取得したら、正式に安全管理者として選任します。

選任の流れ

✓ 選任手順チェックリスト

ステップ1:対象者本人に選任の意向を確認
ステップ2:社内で選任決定(取締役会・経営会議等で承認)
ステップ3:辞令書を作成・交付
ステップ4:社内掲示板・イントラネットで全社員に周知
ステップ5:労働基準監督署へ届出(様式第3号)

辞令書のサンプル

安全管理者選任辞令

辞令

製造部 製造課
佐藤 一郎 殿

令和6年○月○日付で、貴殿を本社工場の安全管理者に選任します。
労働安全衛生法第11条に基づき、労働者の安全確保および労働災害の防止に関する職務を行ってください。

令和6年○月○日
株式会社○○○○
代表取締役社長 ○○ ○○ 印

7. 労働基準監督署への届出(様式第3号)

安全管理者を選任したら、選任から14日以内に労働基準監督署へ届け出る必要があります。

⚠️ 重要な期限

選任義務が発生した日(50人到達日、前任者の退任日など)から14日以内に届出が必要です。

期限を過ぎると、労働安全衛生法違反となり、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

届出に必要な書類

  1. 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告(様式第3号)
  2. 安全管理者選任時研修修了証のコピー(選任者の資格を証明)
  3. 実務経験証明書のコピー(産業安全の実務経験を証明)
  4. 選任を証明する書類(辞令書のコピー、または選任を決定した取締役会議事録のコピー)

様式第3号の記入方法(安全管理者選任)

記入項目 記入内容
労働保険番号 労働保険概算・確定保険料申告書に記載されている番号
事業の名称 会社名(例:株式会社○○)
事業の所在地 事業場の住所(工場の住所)
選任区分 「安全管理者」にチェック
氏名・生年月日 選任した安全管理者の氏名と生年月日
資格 「安全管理者選任時研修修了」
選任年月日 辞令書に記載した選任日
専属・兼任の別 専属の場合は「専属」、兼任の場合は空欄

届出の提出方法

以下のいずれかの方法で提出できます:

  • 窓口持参:事業場を管轄する労働基準監督署の窓口に直接提出
  • 郵送:管轄の労働基準監督署に郵送(特定記録郵便または簡易書留推奨)
  • 電子申請:e-Govを利用してオンライン提出(電子証明書が必要)

✅ 提出後の確認

  • 提出後、労働基準監督署から特に連絡がなければ、受理されたものとみなされます
  • 念のため、提出時に「副本」を持参し、受付印をもらっておくと安心です
  • 郵送の場合は、返信用封筒(切手貼付)を同封すると、受理印が押された副本が返送されます

8. よくある選任ミスと対策

実務でよく発生するミスと、その対策をまとめました。

❌ ミス1:自社が対象業種と知らなかった

原因:製造業の一部門だけの会社でも、安全管理者が必要なことを知らなかった。

対策:

  • 会社の主たる事業内容を確認し、労働基準監督署に問い合わせ
  • 日本標準産業分類で業種コードを確認

❌ ミス2:選任期限を過ぎてしまった

原因:従業員数が50人に達したことに気づかず、選任が遅れた。

対策:

  • 毎月の従業員数を人事部が管理し、45人を超えたら総務部に通知する仕組みを作る
  • 選任義務が発生する前から、資格取得支援を進めておく

❌ ミス3:講習を受講せずに選任してしまった

原因:大卒で2年の実務経験があれば、講習なしで選任できると誤解していた。

対策:

  • 「理科系統の大学卒業」かつ「産業安全の実務経験2年以上」の両方を満たす場合のみ、講習不要
  • それ以外の場合は、安全管理者選任時研修の受講が必須

❌ ミス4:選任人数が不足していた

原因:従業員数の増加に伴い、必要な安全管理者の人数が増えていることに気づかなかった。

対策:

  • 従業員数が300人、1,000人の節目に近づいたら、早めに追加選任を準備
  • 余裕を持って必要人数+1人の有資格者を確保しておく

❌ ミス5:専属要件を満たしていなかった

原因:従業員1,000人以上の事業場で、専属の安全管理者を配置していなかった。

対策:

  • 専属要件が適用される規模(1,000人以上)を把握
  • 専属の安全管理者は他の業務を兼任できないため、専任者を確保

❌ ミス6:様式第3号の記入ミス

原因:労働保険番号や選任年月日を間違えて記入した。

対策:

  • 記入前に、労働保険番号や選任年月日を人事・総務で再確認
  • 提出前に複数人でチェックする体制を作る

実務のコツ:選任状況管理表の活用

安全管理者の選任状況を一覧表で管理すると、ミスを防げます。

管理項目例

  • 氏名
  • 資格(研修修了、労働安全コンサルタントなど)
  • 選任年月日
  • 専属・兼任の別
  • 研修修了証番号
  • 届出年月日
  • 備考(退職予定など)

次の章では、衛生委員会の立ち上げ手順を具体的に解説します。

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