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「教えた」と「伝わった」は同じではない

安全衛生教育を実施すると、記録には、

○月○日 教育実施済み

と残すことができます。

テキストを説明した。動画を見てもらった。注意事項も伝えた。

それでも、実際の作業を見ると、教えたはずのことが行われていないことがあります。

そんなとき、

「ちゃんと教えたのに」

と思うことがあります。

今回は、「教育を実施したこと」と「内容が伝わったこと」は同じなのかというところから考えてみます。

安全衛生教育は「説明すること」だけではない

労働安全衛生法では、労働者を雇い入れたときや作業内容を変更したときなどに、必要な安全衛生教育を行うことが定められています。

雇入れ時・作業内容変更時の教育では、例えば、

  • 機械や原材料などの危険性・有害性
  • 安全装置や保護具の取扱い
  • 作業手順
  • 作業開始時の点検
  • 事故時の応急措置や退避

など、その業務に必要な事項を教育します。

しかし、教育事項を一通り説明したことと、労働者が実際の作業でその内容を使えることは、必ずしも同じではありません。

説明した
↓
理解した
↓
実際の作業でできる

この間には、いくつか段階があります。

教育の実施と、教育の効果は別に見る

「いつ、誰に、何を教えたか」を記録することは重要です。
それとは別に、実際に内容が理解され、仕事の中で使われているかも確認します。

「分かりましたか?」では分からないことがある

教育の最後に、

「分かりましたか?」

と聞くことがあります。

そこで「はい」と返事があれば、一応は確認できます。

しかし、

  • 質問しづらかった
  • 何が分からないのか分からなかった
  • その場では理解したつもりだった
  • 実物を前にすると判断できなかった

ということもあり得ます。

そのため、「分かりましたか?」という確認だけでなく、実際の内容に沿った確認方法も考えます。

例えば「保護具を着けてください」と教えたら

保護具について、

「この作業では、この保護具を使用してください」

と説明したとします。

ここで確認できることは、「保護具を使う」という言葉を覚えているかだけではありません。

例えば、

  • どの作業で必要なのか
  • どの保護具を選ぶのか
  • 正しく装着できるか
  • 使用前に何を確認するのか
  • なぜ必要なのか

まで確認すると、どこまで理解できているかが見えやすくなります。

保護具を使うと説明した
↓
正しく選び、使える?

一度、やってもらう

作業手順や設備の操作については、説明を聞くだけでなく、実際にやってもらうことで理解の状況が分かることがあります。

例えば、

  • 機械の停止方法を操作してもらう
  • 作業開始前の点検をやってもらう
  • 保護具を装着してもらう
  • 退避経路を確認してもらう
  • 決められた作業手順を実際に行ってもらう

といった方法です。

※上記は、教育内容の理解を確認する方法として当協会で整理した例です。すべての安全衛生教育について法令がこの確認方法を一律に義務付けているものではありません。

聞いたことと、できることは違う

特に機械操作や保護具の使用などは、説明を聞いたときには分かったつもりでも、実際に行うと迷うことがあります。

本人の言葉で説明してもらう

もう一つの方法として、教育した内容を本人に説明してもらうことも考えられます。

例えば、

「この機械で一番気をつけるところはどこ?」

と聞いてみます。

あるいは、

  • 異常が起きたら最初に何をする?
  • ここに手を入れてはいけないのはなぜ?
  • この作業で使う保護具は?
  • この表示は何を意味している?

などを、本人の言葉で説明してもらいます。

答えを暗記しているかではなく、自分の仕事として理解できているかを見るための材料になります。

「知っている」と「その場で気づける」も違う

教育で、

床が濡れていると転倒する危険があります

と説明すれば、多くの人は理解できます。

しかし実際の職場では、

  • 荷物を持っている
  • 別の作業に気を取られている
  • 急いでいる
  • いつもの場所なので慣れている

といった条件が加わります。

知識として知っていることを、実際の場面で危険として認識できるかというところまで考えると、教育の方法も変わってきます。

写真を一枚見せてみる

実際の職場の写真を撮り、教育の題材にする方法もあります。

例えば倉庫の写真を見せて、

この中で気になるところはありますか?

と聞いてみます。

すると、

  • 通路に荷物がある
  • コードが横切っている
  • フォークリフトと人の動線が近い
  • 棚から物が落ちそう

といったことに気づくかもしれません。

公的な教材で学んだ内容を、自社の写真に置き換えて確認する方法です。

災害事例なら「次」を考えてもらう

労働災害事例を教育に使う場合も、内容を読み上げるだけでなく、途中で止める方法があります。

例えば、

ここまで読んでみる
↓
このあと何が起こる?
↓
どうすれば止められる?

と考えてもらいます。

結末を知るだけではなく、事故になる前の段階で危険を見つける練習として使うことができます。

※上記は、公表された災害事例を社内教育に活用する方法として当協会で整理した例です。公的機関がこの教育方法を指定しているものではありません。

動画も途中で止めていい

安全衛生教育用の動画というと、最初から最後まで続けて視聴することを考えがちです。

しかし、自主的な社内教育の教材として利用する場合には、内容や利用条件を確認した上で、途中で一度止めて、

  • 今の場面のどこが危険だった?
  • 自社ならどこで起こりそう?
  • このあと何をすればいい?

と確認する方法も考えられます。

「見る時間」を「考える時間」に変える

動画を長く見ることより、途中で自分の仕事と結び付ける時間をつくる方が、教育の目的に合う場合もあります。

間違えたところは、教育の材料になる

理解度を確認すると、間違った答えが出ることがあります。

そこで、

「さっき説明したでしょう」

で終わらせる必要はありません。

なぜ伝わらなかったのかを見ると、

  • 説明が分かりにくかった
  • 専門用語が多かった
  • 実物と教材が違っていた
  • 説明する内容が多すぎた
  • 作業経験がなくイメージできなかった

といった教育する側の改善点が見つかることもあります。

間違いを「本人の問題」だけにしない

理解できていなかったときは、本人への再説明だけでなく、教材や説明方法にも改善できるところがないかを確認します。

同じ教育でも、人によって伝わり方は違う

同じテキストを使い、同じ説明をしても、全員が同じように理解するとは限りません。

例えば、

  • その仕事を初めてする人
  • 同じ仕事を長くしている人
  • 機械操作に慣れている人
  • 日本語を母語としない人
  • 文字より実演の方が理解しやすい人

では、必要な説明や確認方法が違う場合があります。

教育内容そのものは同じでも、伝える方法を変えるという考え方です。

新人には「当たり前」が通じない

長く働いている人にとって、

「そんなことは見れば分かる」

ということでも、初めてその仕事をする人には分からないことがあります。

例えば、

  • この音がしたら異常
  • この場所は滑りやすい
  • この機械は停止後も動く
  • この作業ではここに立たない

といったことです。

経験者が無意識に知っていることを、新人が最初から知っているとは限りません。

教える側の「当たり前」
は
初めての人の「知らないこと」かもしれない

教育した直後だけ見ない

教育直後なら、内容を覚えていることがあります。

しかし、実際の作業を何日か行うと、

  • 自己流になっている
  • 一部の手順を省略している
  • 教えた意味を忘れている
  • 別の方法の方が楽だと感じている

こともあります。

そこで、教育当日だけではなく、実際に仕事を始めた後の行動も見ます。

教育する
↓
実際に作業する
↓
行動を確認する
↓
必要なら、もう一度伝える

できていないなら「なぜ?」を見る

教育した手順が実際の職場で守られていない場合、

教育が足りなかった

可能性もあります。

しかし、それだけとは限りません。

例えば、

  • 手順どおりでは仕事が終わらない
  • 必要な道具が近くにない
  • 保護具が作業しにくい
  • 設備の配置が悪い
  • 周囲の人も手順を守っていない

という職場側の条件が関係している場合もあります。

「知らない」のか、「できない」のか

手順を知らないのであれば教育が必要です。
知っていても実行しにくいのであれば、設備や作業方法、仕事の進め方を見る必要があるかもしれません。

教育記録にも少し情報を足してみる

教育記録には、

  • 実施日
  • 教育内容
  • 対象者
  • 講師

などを残すことがあります。

自主的な教育であれば、必要に応じて、

  • 実演を確認した
  • 理解できなかった点
  • 追加説明した内容
  • 後日確認する事項

などを残しておく方法も考えられます。

※記録すべき事項は、教育の種類や法令上の取扱いによって異なります。上記は社内で教育効果を確認するための記録方法として当協会で整理した例です。

例えば、新人教育なら

※以下は、安全衛生教育の進め方を説明するために当協会で設定した例です。厚生労働省がこの方法を一律に指定しているものではありません。

段階 確認すること
説明 教材を使って危険や作業手順を説明する
実演 実際の設備を使って正しい作業を見せる
確認 本人に実際にやってもらう
質問 危険なところや異常時の対応を本人の言葉で確認する
作業開始後 実際の作業が教育内容どおり行われているか確認する
再教育 分かりにくかった部分や実行できていない部分をもう一度確認する

職場で確認してみる

確認してみること 確認
教育の目的を決めている □
必要な教育事項を説明している □
「分かりましたか?」以外の確認方法も使っている □
必要に応じて実際に作業してもらっている □
本人の言葉でも内容を確認している □
自社の設備や作業を教育に取り入れている □
理解できなかった部分を教育方法の改善にも使っている □
教育後の実際の作業も確認している □
できていない理由を本人の注意不足だけで終わらせていない □
必要に応じて再教育や作業方法の見直しを行っている □

「教育した」という記録の、その先を見る

教育を実施したことを記録するのは重要です。

しかし、記録に

教育済み

と書いてあることと、実際の作業で安全な行動ができることは同じではありません。

教えた
↓
伝わった?
↓
仕事の中で使えている?

教育の終了を確認するだけでなく、教育したことが職場で生きているかを見る。

「教えた」と「伝わった」の間には、確認できることがまだあります。

安全衛生教育の基本を確認する

厚生労働省では、安全衛生教育や、免許・資格・技能講習・特別教育などについて現在の制度をまとめて案内しています。

▶ 厚生労働省「労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など」を見る

安全衛生教育に使える教材を見る

厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、業種別・言語別の動画や、VR教材などが公開されています。

▶ 職場のあんぜんサイト「各種教材・ツール」を見る

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公的機関が公開している動画、リーフレット、災害事例などを社内教育に活用する方法を紹介しています。

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外国人労働者への教育では、教材を翻訳したかだけではなく、本人が理解できる方法で伝え、理解できているか確認することも重要です。

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