第9章:ストレスチェック制度
2025年5月14日に労働安全衛生法の一部改正法が公布され、従業員50人未満の事業場もストレスチェックの実施が義務化されることが正式に決定しました。
- 施行日: 公布後3年以内に政令で定める日(最長2028年5月まで)
- 現在の状況: 50人未満の事業場は引き続き「努力義務」
- 今後の対応: 施行日が近づくにつれ、厚生労働省から詳細な実施マニュアルや支援策が発表される予定
※本章では、現行制度(50人以上義務)を中心に解説し、50人未満の義務化については「8-7. 今後の制度変更について」で詳しく説明しています。
9-1. ストレスチェック制度とは
ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的として、平成27年12月から義務化された制度です。
制度の目的
- 一次予防: メンタルヘルス不調の未然防止
- 気づきの促進: 労働者自身のストレスへの気づき
- 職場環境改善: 集団分析による職場のストレス要因の把握と改善
- 早期対応: 高ストレス者の早期発見と医師の面接指導
この制度は、メンタルヘルス不調になってから対応する「二次予防」ではなく、不調になる前に予防する「一次予防」に重点を置いています。労働者が自分のストレス状態に気づき、セルフケアにつなげることが重要な目的です。
9-2. 実施義務の対象事業場
現行制度(2025年11月時点)
| 事業場規模 | 実施義務 | 報告義務 |
|---|---|---|
| 常時50人以上 | 義務 | あり(労働基準監督署へ報告) |
| 常時50人未満 | 努力義務(※2028年までに義務化予定) | なし |
「常時使用する労働者」の範囲
- 正社員
- 契約社員(1年以上の雇用契約または更新予定)
- パート・アルバイト(週の所定労働時間が通常の労働者の3/4以上)
- 派遣労働者(派遣元・派遣先の両方でカウント)
9-3. 実施頻度と時期
実施頻度
年1回以上の実施が義務付けられています。
実施時期の決め方
- 毎年同じ時期に実施することが望ましい
- 年度ごとの比較が可能になる
- 繁忙期を避けて実施
- 初回実施日から1年以内ごとに実施
- 繁忙期の実施は避ける(ストレス値が一時的に高く出る可能性)
- 組織変更直後の実施も避ける(異動等の影響で正確な測定が困難)
- 毎年同じ時期に実施することで、経年変化の比較が可能
9-4. 実施の流れ(5ステップ)
STEP 1: 導入準備
- 実施体制の確立(実施者、実施事務従事者の選定)
- 実施方法の決定(質問票の選定、実施時期など)
- 社内規程の整備
- 労働者への周知
STEP 2: ストレスチェックの実施
- 質問票の配布(紙またはWeb)
- 労働者が質問票に記入
- 実施者による回収
実施者: 医師、保健師、厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士
STEP 3: 結果の通知と評価
- 実施者がストレスの程度を評価
- 高ストレス者を選定
- 結果を本人に直接通知(事業者を経由させない)
- 面接指導の対象者に該当するかを通知
STEP 4: 面接指導の実施
- 高ストレス者本人からの申出
- 産業医等による面接指導
- 就業上の措置の要否について医師から意見聴取
- 必要に応じて就業上の措置を実施
STEP 5: 集団分析と職場環境改善
- 一定規模の集団ごとにストレス状況を分析(努力義務)
- 部署・チームごとのストレス傾向を把握
- 職場環境の改善につなげる
9-5. 実施者と実施事務従事者
実施者の要件
以下のいずれかの資格を持つ者:
- 医師
- 保健師
- 厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師
- 厚生労働大臣が定める研修を修了した精神保健福祉士
実施事務従事者
実施者の指示により、ストレスチェックの実施事務に携わる者。人事権を持つ者は実施事務従事者になることができません。
人事権を持つ者の制限
- 人事権を持つ者は実施者・実施事務従事者になれない
- 個人の検査結果を閲覧できない
- 労働者のプライバシー保護のため
9-6. 報告義務
報告書の提出
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出義務者 | 常時50人以上の労働者を使用する事業者 |
| 様式 | 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書 |
| 提出先 | 所轄労働基準監督署長 |
| 提出時期 | ストレスチェックを実施した年の翌年1月末日まで |
| 罰則 | 報告書未提出の場合、50万円以下の罰金 |
報告書の記載事項
- 実施年月日
- 在籍労働者数
- ストレスチェックを受けた労働者数
- 面接指導を受けた労働者数
- 集団分析の実施の有無
報告書には、個人の検査結果や個人が特定される情報は含まれません。あくまで事業場全体の実施状況を報告するものです。
9-7. 今後の制度変更について(50人未満の義務化)
法改正の概要
- 公布日: 2025年(令和7年)5月14日
- 施行日: 公布後3年以内に政令で定める日
- 最長施行時期: 2028年(令和10年)5月14日まで
改正内容
現在「当分の間努力義務」となっている労働者数50人未満の事業場についても、ストレスチェックの実施を義務化します。
小規模事業場への配慮措置
厚生労働省は、50人未満の事業場が円滑に制度改正に対応できるよう、以下の支援策を講じる予定です:
- 実施マニュアルの作成
- 50人未満の事業場に即した実施体制・実施方法
- 労働者のプライバシーが保護される仕組み
- 現実的で実効性のある方法
- 地域産業保健センター(地さんぽ)の体制拡充
- 医師による面接指導の受け皿強化
- 相談しやすい環境の整備
- メンタルヘルスに知見のある医師の確保
- 十分な準備期間の確保
- 施行まで最長3年の準備期間
- 段階的な導入支援
国会附帯決議での指摘事項
参議院および衆議院の厚生労働委員会では、以下の点が附帯決議として付されました:
- 事業者に過度な経済的負担及び業務上の負担が生じないよう配慮
- 事業場の状況に鑑み、導入時期を慎重に検討
- 集団分析・職場環境改善の在り方について、義務化の可否を含めて検討
- デジタルを活用したストレスチェックの実施方法の整備
- 高ストレス者が安心して面接指導の申出をできる環境整備
50人未満事業場の準備のポイント
| 準備項目 | 内容 |
|---|---|
| 情報収集 | 厚生労働省からの最新情報(マニュアル、Q&A等)を定期的に確認 |
| 実施体制の検討 | 実施者の確保、地域産業保健センターとの連携方法を検討 |
| 予算の確保 | ストレスチェック実施に必要な費用を予算化 |
| 労働者への周知 | 制度の目的や意義を労働者に説明 |
| 試行的実施 | 義務化前に任意で実施し、運用を確認(推奨) |
義務化までまだ時間がありますが、早めに準備を始めることをお勧めします。特に、地域産業保健センター(地さんぽ)との連携方法や、実施者の確保について、今のうちから情報収集しておくとスムーズです。
また、義務化前であっても、労働者のメンタルヘルス対策として任意で実施することも検討してみましょう。
9-8. よくある質問
Q1. 労働者がストレスチェックを拒否した場合はどうなりますか?
A. ストレスチェックの受検は労働者の義務ではありません。受検を拒否したことを理由に不利益な取扱いをすることは禁止されています。ただし、事業者としては、できるだけ多くの労働者が受検するよう周知・勧奨することが重要です。
Q2. ストレスチェックの結果は事業者に知らせる必要がありますか?
A. 労働者本人の同意なく、事業者にストレスチェックの結果を提供することはできません。ただし、面接指導の申出があった場合は、事業者は必要な範囲で情報を知ることになります。
Q3. 派遣労働者のストレスチェックは誰が実施しますか?
A. 派遣労働者のストレスチェックは、原則として派遣元事業者が実施します。ただし、派遣元と派遣先の契約により、派遣先が実施することも可能です。
Q4. 集団分析は必ず実施しなければなりませんか?
A. 集団分析は現在のところ努力義務です。ただし、職場環境の改善につなげるためには、集団分析の実施が非常に有効です。(※国会附帯決議では、将来的な義務化も含めて検討することが指摘されています)
Q5. ストレスチェックの実施費用は誰が負担しますか?
A. ストレスチェックの実施は事業者の義務であるため、費用は事業者が負担します。ただし、50人未満の事業場に対しては、義務化後に助成金等の支援策が用意される可能性があります。
9-9. チェックリスト
ストレスチェック実施前
- 実施体制を確立した(実施者・実施事務従事者の選定)
- 実施方法を決定した(質問票、実施時期、方法)
- 社内規程を整備した
- 衛生委員会で審議した
- 労働者に制度の目的と実施方法を周知した
- プライバシー保護の仕組みを確認した
ストレスチェック実施中
- 質問票を配布した
- 回答期限を設定し、周知した
- 未回答者へリマインドした(任意であることを伝えた上で)
- 回答結果を適切に管理した
ストレスチェック実施後
- 結果を本人に直接通知した
- 高ストレス者に面接指導の案内をした
- 面接指導の申出を受け付けた
- 産業医等による面接指導を実施した
- 必要に応じて就業上の措置を講じた
- 集団分析を実施した(努力義務)
- 報告書を労働基準監督署に提出した(50人以上)
- 記録を保存した(5年間)
以下の理由で労働者に不利益な取扱いをすることは禁止されています:
- ストレスチェックを受けないこと
- ストレスチェック結果の事業者への提供に同意しないこと
- 高ストレス者として面接指導の対象となったこと
- 面接指導の申出を行ったこと
- 面接指導の結果、医師の意見が述べられたこと
9-10. 関連リンク
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